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Midnight waltz Cafe 

1st Dance -第3幕-

        
          第3幕   追憶の中の理由



5月31日日曜日の早朝、外が少し明るくなり始めた頃、さわやかな風に吹かれながら涼は夢を見ていた。



約6年前の冬に時間はさかのぼる。

その頃、もうすぐ10歳になろうとしていた涼と、今度の春に高校生になる姉の滝河桜(たきがわさくら)、そして幼なじみの雪絵との3人でクリスマスパーティの準備をしていた時だった。

そのとき、姉さんに聞いたんだっけ。確か・・・

「おねえちゃん、夜にいつもどこに行くの?」

「う~ん、そうねぇ。誰にも言わないって約束できる?できたら教えてあげる。」

「うん、する。」 

「わたしも。」

「そう、じゃあ私の部屋に来て。」

そう言われて、姉さんの部屋に行ったっけ。

「これが答えよ。」

黒のシルクハットにスーツ、赤のネクタイ、銀の眼鏡、白の手袋、そして大きな黒いマントを姉さんは出してきた。そして部屋の鍵とカーテンを閉めこう言った。

「これから面白いものを見せてあげる。種も仕掛けもございません。

 ワン、トゥー、スリー!!」

その瞬間さっき出してきた一式を身にまとっていた。

「実はね、私の運動神経とこのマジックを使って『怪盗』をしているの。」

「桜お姉ちゃん、かいとうって、『かいとうちぇりー』のこと?」

怪盗という漢字が思いつかないながらも、雪絵がたずねる。

「おねえちゃんが、かいとうちぇりーなんだ。じゃあさ、じゃあさ。とったものはどこにあるの?」

「それはね、元の持ち主のところよ。」

「もとのもちぬし?」

「私が盗んでいるのは悪い人にだまされて取られたものなの。それを私が盗んで取り返してあげるの。元の持ち主にね。」

「どこから困った人の話を聞いてくるの?」

「教会よ、あ、雪絵ちゃんの家のね。そこで困った人の話を聞くの。それでわたしにできることなら、怪盗チェリーの出番よ。」

「おねえちゃん、どこで『かいとう』おしえてくれるの?」

「それは秘密よ。」

「そっか、俺大きくなったら『かいとう』になる。そしておねえちゃんみたいにいろんな人を助けてあげるんだ!」

「じゃあ、私は教会で困っている人の話を聞く!」

その時の2人の瞳は輝いていた。決意に満ちているかのように。



・・・そして、その決意が何年か後に実現することは、まだ誰も知らないことである。



そんなやりとりから5年後の冬。

俺と雪絵は、中学3年生で受験勉強の真っ只中。

姉さんは高校生の間までは怪盗を続けていたが、高校卒業後は遠くの大学に行ったためか怪盗チェリーは引退した。あの日から姉さんに無理やり手品を教わる約束をとりつけた俺は、教えてもらっていた。遠くの大学に行ってからは、手紙に書いてもらって。

そんな冬のある日、姉さんからの最後の手紙がきたのだった。最後というのはそれ以来手紙が届いていないからだ。その手紙には「この手紙が届いている頃、私はもういないかもしれない。涼、青いバッジと黒い宝石には気をつけてね。」と、そうかいてあるだけであった。

俺はその手紙をもって、雪絵のところに走っていった。

数分の沈黙が訪れたのは、言うまでもないが・・・先に口を開いたのは雪絵で、ひとつの提案がされたのだった。

「涼が怪盗チェリーをするの。そしていろんな事件に関わっていけば、いつか、いつかこの真相がわかるかも知れない。それで私はこの教会で困っている人の情報を集めるの。そしてチェリーが活躍すればするほどいいの。桜さんが生きていたら・・・」

「怪盗チェリーが俺だと気づくってことか。」

涼は、雪絵の提案を聞き、少し考え賛成した。

「よし、高校生になったらスタートだ!」

そして2人とも天文坂高校に合格し、その入学式の3日後には「2代目怪盗チェリー」は予告状のとおり盗みを働き、もちろん盗んだものは元の持ち主に返している。その日の朝刊には「怪盗チェリー、3年ぶり!」と、1面を飾り鮮烈なデビューをした。

それから姉さんの手紙の真相と行方を求めて、怪盗を続けている。



「怪盗を始めて1年か・・・。まだ何もわかっちゃいないな。」

6年前の夢を見ると必ず1年半前のこと想いだすなぁ・・・とつぶやきながら、着替えて雪絵のいる教会へと行こうと出かけるのだった。

「真実はしらないほうがいいか・・・自戒の言葉だったかな。」

しかし真実を求めてさまよう怪盗を辞めることはなかった。



その頃真理は、自分が真実を求める理由となっている事件、1年ほど前の母の死を思いだしていた。両親はどちらも警察の人だからいつ死んでもおかしくないと、今では思えるが、父は何も教えてくれない。 だから探偵になろうと中学卒業後に、父と一緒に外国へ行ったのだった。そして今は高校生探偵として警察の手伝いをしている。探偵をしていれば、いつかもしかしたら真相が分かるかもしれないとひとつの望みをのせて・・・

少しして真理は、図書館に本を返さなければならないのを思い出して出かけようとする。 母の写真に挨拶した後、父に出かけることを言おうとして部屋に向かったとき、部屋の中から、父の声が聞こえた。「琴美、すまんな。私はまだ真理にあのことは言えない」と。

真理は少し間をおいてノックし、部屋の中にいる父に「図書館に行ってきます」と告げて、家を出る。

図書館に向かいながら真理は、「父は何か隠している。でもいったい何を?真実は?」

独り考えていた。

 

-怪盗も探偵も、過去に親しき人がいなくなったことから、真実を追い求めさまよっているのは同じのようだ。

・・・そして、真実は少しずつ、そう少しずつ分かっていくのであった。


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